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文化立国への道(転の巻)

◆【文化】の破壊者と継承者
ちょうど本文を書いているとき、対照的なふたつの情報に出会った。
ひとつは、農と食に「経済」からの意見を掲載した日本経済新聞の記事。
対するは、伝統的な農芸品で【文化】を守り続ける人達を紹介するNHK TVの番組。

◆日本経済新聞 10/26付け特集記事
・シンポジウム「日本の農と食」 日本経済新聞社主催(9/24)より

シンポジウムでは、農業の再生には<大規模化>こそが必要だと強調された。
農業でも生産効率を上げるべしという「経済」的立場の人達の常識的意見だ。
しかし、その常識が、実は文化的には非常識という側面を持っている。

大企業経営者パネリストの発言(記事から引用):
・元気な高齢者が70歳になってもまだ農業を支えるというのはどうか。
 投資効率の高いところに投資すべきだ。
 企業、法人などに委託して預け賃をいただく形に持っていく。

つまり、高齢者が農業にしがみついていて非効率だから、さっさと引退しろ、という。
この発言には、いくつもの懸念される要素が含まれている。
以下、要点だけを述べておく。(後日、「農業の再生」論で詳述予定)

第一に、まじめに働いている高齢者に対して失礼だ。働く高齢者には敬意を払うべし。
第二に、農業は高齢者でも継続できる優れた職業であることを無視している。
第三に、農業効率化の式の分子を<米の売上>だけでみるのは、ごく貧弱な発想だ。

第四は、大規模化で離農する人達は、何を生きがいにするのか。
第五に、土と米への農家の強い愛着を、効率化に対する障害と捉えている。
第六に、大規模化できない農地の方が圧倒的に多いが、その解決には関心が薄い。

第七に、規模の大小を問わず、農家が自己責任で好みの米を作る環境を整備すべきだ。
第八に、農業は自然と人の共生であり、効率優先の工場生産とは根本的に違う。
第九に、<農業の現場>をほとんど知らない、中央からの発想ということだ。

などなど ‥‥。
危惧されるのは、大規模化で、農業を資本力で奪われた農村集落が衰退することだ。
ごく一部の大規模農家が生き残っても、農村社会が崩壊し、地域社会も崩壊する。

郊外の大型店舗は駅前商店街を衰退させ、進出していた工場は不況で撤退が相次ぐ。
「経済」の論理は、結局、非効率な地方を荒廃させ、切り捨てる。
そこへ同じ論理で、今度は農業に大規模化・効率化を持込む。 危うし、危うし!!!

‥‥ 大規模化は、複雑な農業再生にとってはひとつの手段に過ぎない。
‥‥ 農業を伝統ある地域社会の中で位置づけ、総合的戦略で再生する必要がある。
‥‥ 政府の農家戸別補償制度は方向性が見えない。 大規模化には逆風になるか。


◆NHK BS hi ”かいこさま”に感謝して ~ 福島県伊達市
これは「こんなステキナにっぽんが」というシリーズ番組の一編。
2009/10/14(水)12:30-12:55(再放送)を録画。
地方に残る貴重な【文化】を垣間見ることができた。

昭和に撮影された一枚の写真を手がかりに、ステキなにっぽんを探す。
今回は、福島県伊達市(旧保原町)で今も続く蚕の繭からの真綿作り。
江戸時代から、貴重な現金収入を得る農家の女性達の手内職であった。

当地の真綿は、蚕の繭を熟練の手さばきで袋状に開いたもの。
製品化された真綿は、背中、腰などに当てて防寒用などに使われる。
優れた品質で、現金で取引され、入金真綿(イリキンマワタ)と呼ばれた。

蚕は、養蚕農家(約30軒)が2週間、毎日新鮮な桑の葉を与えて飼育する。
蚕は、繭を一週間かけて作る。 糸は1300mという。
人々は、蚕への感謝の気持をこめて、”かいこさま”と呼ぶ。

現在、真綿作りの女性は、約100人。
その中の一人、81歳のおばあちゃんは、66年のキャリア。
繭5~6個で真綿1枚を作る。 緻密でスキのない作業。

1日に約1,000個の繭を使い、1週間で800枚程の真綿にする。
枚数がまとまると問屋が引き取りに来る。 今回は約1kgで、9300円也。
精算後、おばあちゃんは、務めを無事に終えたことを、まずご先祖に報告。

おばあちゃんのことば。
・元気で気分がよい日でないと、いい真綿ができない。
・最後まで真綿から離れないで、世を終わりたい。

‥‥ 人々の心を込めたひたむきな仕事ぶりに、日本人の心がある。
‥‥ おばあちゃんのことばは、地方の【文化】を支える心そのものだ。
‥‥ 地方にわずかに残る【文化】の火種を消滅させてはならない。

◆あまりに対照的
それにしても、あまりに対照的なことばとの出会いであった。
中央と地方、大規模と手内職、効率と伝統、高齢者排除と生き生き高齢者。
経済効率への偏りで、日本の【文化】は衰退し、人の心も荒廃した。

政治は、経済を<経世在民>の道具として運用すべきだ。
<経世在民=經世濟民=世を經(おさ)め、民を濟(すく)う>
今、日本は【文化】を拠り処にして「経済」を再構築すべき時なのだ。