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詩歌 ~『千曲川旅情の歌』

◆早春に思う
このところ、暖かさと寒さがくり返す。
早春にいつも思い出すのは、藤村の『千曲川旅情の歌』。
幼い頃に過ごした雪国の春の訪れが思い出されて懐しい。
 
 小諸なる古城のほとり
 雲白く遊子(いうし)悲しむ
 緑なす(はこべ)は萌えず
 若草も藉くによしなし
 しろがねの衾(ふすま)の岡邊
 日に溶けて淡雪流る

藤村詩集は持っているが、めくることはめったにない。
ネットの青空文庫の中に、ファイルを見つけて、部分をコピーした。
これからはいつでもパソコン画面で、この名詩を読むことができる。

『千曲川旅情の歌』から受ける感動は、実は、ここ数年でさらに深まった。
年をとったことの実感とあいまって、である。
そして、年をとることの<味>が分かってきた。

若いときに、この詩を読んだ後に、たちまち小諸へと出かけた。
千曲川の土手に立って、そこに来たこと自体に満足していた。
写真で見た金閣寺を直接訪れて満足した、といった感覚であった。

そして今、この季節になると、「小諸なる古城のほとり ~」となる。
読みながらに情景が目に浮かぶ。
そこへ幼い頃の新発田の思い出が重なる。

すばらしい心の世界が果てしなく拡がる。
至福の時が流れる。
<年の功>というべきか。

◆青空文庫から
藤村詩集に収められた原詩の「一」の全文を以下に転載する。
青空文庫は、このテキストを転載することを認めている。
さらにコピー・転載することもフリーなのでご自由にどうぞ。

 ◇ ◇ ◇

◆千曲川旅情の歌
(島崎藤村 藤村詩抄より)

小諸なる古城のほとり
雲白く遊子(いうし)悲しむ
緑なす(はこべ)は萌えず
若草も藉くによしなし
しろがねの衾(ふすま)の岡邊
日に溶けて淡雪流る

あたゝかき光はあれど
野に滿つる香(かをり)も知らず
淺くのみ春は霞みて
麥の色わづかに青し
旅人の群はいくつか
畠中の道を急ぎぬ

暮れ行けば淺間も見えず
歌哀し佐久の草笛
千曲川いざよふ波の
岸近き宿にのぼりつ
濁り酒濁れる飮みて
草枕しばし慰む


底本:「藤村詩抄」岩波文庫、岩波書店
   1927(昭和2)年7月10日第1刷発行
   1957(昭和32)年7月5日第35刷改版発行
   1991(平成3)年11月12日第75刷発行

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入力:土屋隆
校正:浅原庸子
2004年5月10日作成
2005年5月21日修正