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2011年12月23日

F1野菜:迫り来る影

◆F1野菜は野菜か?
先に(12/00)、F1を私的に表現した:

-- ・F1は、雑種強勢による一代交配雑種で、多くは雄性不稔ミトコンドリアを持つ

前半部分は<F1が急速に普及した理由>にもなっている。
後半部分は<F1の危うさを示唆する要因>になっている。

そもそもこうしたF1野菜は、野菜といえるのだろうか?
自然界ではたちまち淘汰されるF1が、人工的に大量生産され、市場にあふれている。
ここでは、<野菜もどき>のF1野菜がもたらす弊害について考えてみたい。


◆<在来種(固定種)>の衰退
現在の市場構造では、<在来種(固定種)>野菜はF1に対して著しく劣勢である。

-- ・生育期間がF1よりかなり長い
-- ・同時に蒔いても個々に育つので、同時にまとめて収穫できない
-- ・大きさや形が揃っていないので、選別に手間がかかる
-- ・傷ついたり折れたりしやすいい
-- ・日持ちしないものが多く、収穫後の保管がしにくい

生産農家からは敬遠され、流通・小売業者には嫌われ、消費者には疎まれる。
かくして、種苗会社の繰り出すF1が覇者となる。
<在来種(固定種)>の栽培農家は激減してしまった。

良識的な顧客を持つ<在来種(固定種)>栽培農家は、したたかに活躍している。
自家菜園でも<在来種(固定種)>は生き残っているようだ。
しかし、全体としては<在来種(固定種)>は衰退の一途をたどっている。


◆「和」の食文化の衰退
<在来種(固定種)>野菜の衰退は、「和」の食文化を衰退させている。
「素材の味」を生かすのが「和」食の特徴だ。
F1は、その肝心の「素材の味」を捨てた、無個性な味の<野菜もどき>である。

ダイコンらしい味はせず、ニンジンらしい味はせず、ゴボウらしい味もしなくなった。
季節の味も、地方の味も、農家の味も失われた。
F1は、短期間で生育するので熟成期間がなく、個性が集積しないためであろう。

 ◇ ◇ ◇

これは、たとえば惣菜屋さんや弁当屋さんには都合がいい。

ダイコンだけをダイコンらしく味付けする、ニンジンしかり、ゴボウもしかり、…。
それぞれの味を、後付で自由自在に合成できる。
F1は形も大きさもそろっていて、煮崩れもせず、作業効率もいい。

それらを小分けの野菜煮として盛合せればよい。
見かけの素材の味で、見かけのおいしさが実現される。
おいしいと感じるから消費者は歓迎し、惣菜も弁当もよく売れる。

一方で、F1野菜は、伝統的な家庭料理にはかなり不都合だ。

ふつう家庭では、いろいろな野菜を一つの鍋に入れて、煮て味付けする。
<在来種(固定種)>であれば、それぞれの野菜がそれぞれの味を出してくれる。
ダイコンはダイコン本来の味を、ニンジンしかり、ゴボウもしかり、…。

味付けは共通でも、野菜の個性で多彩な味のハーモニーが生まれる。
自然の素材の味で、自然のおいしさが実現されれるのである。
それが、おふくろの味であり、家庭の味であり、ふるさとの味である。

F1野菜では、こういう料理は作れない。
個々の野菜に個性などないから、全体で平々凡々な味にしかならない。
惣菜・弁当の見かけの人工味に勝てず、家庭料理を作る張合いが失われた。

かくして、F1は「和」の食文化を家庭から追い出した。
F1の勝利は、経済効率優先の必然の結果でもあった。
最近、おふくろの味がひときわ懐かしいと感じる。

◆日本危うし!!
F1は、<豊かな多様性>をもつ農業を<単純化・規格化>してしまう。
F1は、<伝統的な和食文化>を破壊し、<人工的食文化>を蔓延させる。
F1は、雄性不稔ミトコンドリアで、人の遺伝子に悪影響を及ぼす恐れもある。

F1は、農業的、社会的、生物的にかなり危険な農産物だ。
野放しでいいのか?意識もせずにF1を食べていていいのか?
我々は、F1から逃れる方策を真剣に考える必要がある。

2011年12月17日

F1野菜:市場経済の申し子

◆F1野菜は市場経済の申し子
F1野菜は、市場を席巻している。
八百屋さんで<在来種(固定種)>の野菜を買うことは難しくなった。
<在来種(固定種)>は、青果市場が受け付けなくなっているからだ。

F1野菜は市場経済の申し子である。
大量生産・大量消費の社会における適者生存の好例だ。
F1を止めるには、現代の社会をひっくり返す必要がある。


◆F1野菜は八方美人
F1野菜は、これに係わる多くの人達に歓迎される。
種苗会社も、栽培農家も、流通・小売業者も、食品・外食・惣菜・弁当業者も大歓迎だ。
食の安全に敏感なはずの消費者も、知らず知らずに、その普及に大きく加担している。

◇種苗会社はウハウハ
F1は種苗会社にとって、きわめておいしい儲けの種だ。
農家はF1からは種を採取できないから、また種を買わなければならない。
評価の高いF1を揃えれば、種苗会社はウハウハだ。

◇栽培農家はラクラク
農家にとってF!は、ラクラクでありがたい存在だ。

-- ・生育期間が<在来種(固定種)>よりかなり短い
-- ・同時に蒔くと同時に育つので、同時にまとめて収穫できる
-- ・大きさや形が揃っているので、選別が楽になる
-- ・適度な硬さがあるので傷ついたり折れたりしにくい
-- ・日持ちするので、収穫後の保管が容易になる

◇流通・小売業者はスイスイ
流通・小売にとって、F1はスイスイととても扱いやすい。
日持ちして、形傷みもしないので運搬・保管が容易。
同じ形質なので、パックにして均一価格で陳列でき、レフもスイスイ。

◇食品・外食・惣菜・弁当業者はホクホク
F1の種で契約栽培させれば、安定品質の野菜を低コストで調達できてホクホクだ。
F1は、均一の大きさで均質なため、大量の調理に便利である。
味も淡泊で個性がないから、自前の味付けが自由にできる。

◇消費者はウマウマ
F1は店頭で選ぶのに鑑別力はいらないし、形が整っているので調理が楽。
日持ちがするので、保存が効く。
味が淡泊なので、サラダやスープやジュースなどの食生活にはウマウマだ。


◆八方ふさがり
かくして、F1は食の世界を制覇した。
<雄性不稔>の<ミトコンドリア>を、毎日々々、食べ続ける野菜生活。
東京では、いかにせよ、もうF1を逃れる術(すべ)はないようだ。

2011年12月14日

F1野菜:遺伝的生物的特性

◆F1について考える
<blogサイト日記>から引き継いで、『F1』をテーマに当ブログで考えていきたい。
頼りにするのは、前述の野口さんの本である:
-- ・「タネが危ない」野口勲著(2011年9月発行 日本経済新聞出版社 1,840円

本書では、F1について多くの具体例を挙げながら丁寧に説明している。
しかし、申し訳ないけれど、F1とは何かを要約して理解するのがなかなか難しい。
もともときわめて複雑な分野である上に、我が読み取り能力が貧弱なせいもある。


◆F1の遺伝的生物的特性(=私的な理解)
F1を理解するには、簡潔な表現が覚えやすくて有効だ。
それには専門的な用語(キーワード)を避けない方がよさそうだ。
そこで、私的につぎのように表現してみた:

-- ・F1は、雑種強勢による一代交配雑種で、多くは雄性不稔ミトコンドリアを持つ

前半部分は<F1が急速に普及した理由>にもなっている。
後半部分は<F1の危うさを示唆する要因>になっている。
ただ、初めて見たらチンプンカンプンかもしれないので、以下で用語の説明をしたい。


◆用語の説明(=私的な理解)

◇<雑種強勢>(ざっしゅきょうせい)
・雑種第一代が両親のいずれよりも優れた形質(大きさ、耐病性など)を示す現象
なぜそうなるのかは未だ解明されていない、という。

◇<一代交配雑種>
・雑種強勢を利用して、より有用な形質を伸ばす方向に品種改良されたもの
交配一代目のみが有用で、その形質は二代目以降には引き継がれない。

◇<雄性不稔>(ゆうせいふねん)
・雌しべは正常だが、雄しべに欠陥があるため、受粉・受精や種子形成ができないこと
もう少し具体的には、雄性不稔の植物の株は、

・花粉を作る能力を欠いている
・花粉粒は作るものの正常に発芽できない
・葯が物理的に裂開不可能、など

◇<ミトコンドリア>
・細胞内に共生している微粒子で、細胞にエネルギー源である酸素を供給する。
反面、自分が傷つくと活性酸素を発生させ、細胞の老化やガン細胞化の要因ともなる。

ミトコンドリアは、一つの細胞に数千個も含まれている。
ミトコンドリアは母系からのみ遺伝し、父系のミトコンドリアは受粉時に消滅する。
なぜ、父系のミトコンドリアが消滅するのかは、まだ分らないそうだ。

F1では、多くは、このミトコンドリアの雄性不稔の遺伝作用を利用している。
自然界では、雄性不稔のミトコンドリアはごく稀に出現するが、すぐに淘汰される。
しかし、F1の世界では、雄性不稔のミトコンドリアは<金の卵を産む鶏>なのだ。

F1は、自らの種を再生産できない一代雑種である。
F1は、異常な遺伝子のミトコンドリアを、全体重量の約10%含んでいる。
どんな野菜をどのように交配してF1にしたのかは、種苗会社の企業秘密である。。


こんなF1野菜を毎日食べ続けて、ホントに大丈夫なのだろうか?